『我が70年の投資哲学 シニア&初心者に捧げる(長谷川慶太郎)』

有名な経済評論家の長谷川慶太郎。9月3日に亡くなったことも有名です。

この本は、その長谷川慶太郎さん最後の著書となるのかもしれません。

個人投資家を育てたい⁉

本書は冒頭から、長谷川慶太郎さんの個人投資家への思いから始まりました。

日本は、個人投資家にとってあまりいい環境ではないところがあると考えていて、個人投資家協会を設立し、個人投資家をもっと尊重するように、国、企業、証券会社に圧力をかけようと考えたそうです。

そういう経緯もあってか、個人的にも、近年は、少しずつ個人投資家を尊重する動きも感じられるようになってきました。

国は、NISAやイデコといった税制面での優遇策を打ち出してきて、企業は個人投資家を増やそうとIRや配当、株主優待など、個人投資家が喜ぶような取り組みをする会社が増えてきました。

そして、証券会社は、その多くはネット証券によるものですが、ほとんど手数料がかからない株式投資もできるようになってきました。

こういった環境を見ると、個人投資家が株式投資に向き合いやすい環境が少しずつできてきたのかなと感じます。

しかし、まだまだ足りないと個人的には感じています。

日本で株式投資を行っている人は、まだまだ少数。

仮に株式投資を行っていても、個人が保有している資産の内ごく一部でしかないことがほとんどです。

今では数百円で株式が買えるなんてサービスも始まっていますが、こんな少額で投資できるサービスを増やしたところで、本当の意味での個人投資家になるためには、ほど遠いのではないかと思うところです。

やはり、本当の意味での個人投資家を増やすのであれば、長谷川慶太郎さんも指摘している通り、株式投資を勉強する環境、投資家としての教育、株式投資に限らないマネーリテラシーの向上。

これが一番必要なのではないでしょうか?

そういった意味では、日本はあまりいい環境とは言えません。

ファイナンシャル・プランナーと呼ばれる、お金の専門家が一般消費者にお金の情報や知恵を提供するサービスも増えてきましたが、そのサービスでさえ名前だけで、ただの保険販売や投資信託の販売でしかないことも多いものです。

子どもも大人も、金銭教育という分野ではあまり恵まれている環境にあるとは言えないと感じています。

個人投資家へ向けた投資哲学?

あくまで個人的な感想ではありますが、本書の内容では個人投資家の教育としてはあまりにも内容が不足していると感じました。

本書では買い推奨の銘柄や、買ってはいけない銘柄などを紹介していますが、はっきり言ってあまり使えない情報かもしれません。

企業の事業環境や、技術、経営方針などを上げて、企業の将来性を分析し、推奨銘柄かどうかを説明する流れで話が出来ていますが、実際の株式投資では、それがうまく行くかどうかは、一か八かの世界だと考えます。

まず、将来性という不確実なことを投資の基準にすること自体が、投機に近いと感じています。

投資のリスクをコントロールするには、『分かることと、分からないこと』を明確に区分することから始まります。

それなのに、企業の将来性という、かなり不確かなところだけで銘柄選別をしようという姿勢は、かなりリスキーな取引なると思っています。

それに、似たような視点で、株式投資をしていて、うまく行っている人というのもあまり見かけたことがありません。

こういうストーリーに賭ける投資姿勢は、かなりくじ運の強い人でないと、うまくいかないものでしょう。

確かに、少数派に徹するや、横並び発想は危険、信用取引などで投機になってはいけない。といった意見には、賛同します。

しかし、これらの哲学について、うまく説明できていないとも感じました。おそらく長年株式市場を見てきたなかで、直感的に感じ取っているに過ぎないのなのかもしれません。

さらに一番の問題は、『本書で取り上げている企業が、どんな技術や商品を持っていて、そして世の中が変化していく中で、その技術や商品に注目や需要が増えたりする可能性がとても高いため、この企業の株式は買いだ』といった説明が多数登場してきます。

しかし、実際に予想通りのことが起きたとして、その影響が、どの程度その会社の業績に影響を与えるのかについての考察は一切ありません。

本書に登場する企業のほとんどは、一つの商品やサービスだけで事業を行っているわけではありません。

特に、有名な大企業となるとなおさらです。

つまり、予想通りに目的の商品やサービスが売れたとしても、その売り上げや利益が、企業全体の利益にどの程度影響を及ぼすのかを考えなければ、ただ売れそうな商品を持っているというだけで投資をするというのはいかがなものかと思うわけです。

それを予測することが出来ない中で、本書でいっているようなストーリーだけを強調して賭けることはあまり賢い方法とは思えません。

つまり、本書の内容を真に受けて株式投資をすることは、当たったらラッキーの投機をするのと大して変わらない結果となってしまうのではないかと危惧しています。

個人投資家を応援したい、投資家としての考え方を身に着けさせたいという思いには大いに賛同するところではありますが、本書の内容では、その思いを実現するのとは、正反対のうまくいかない投資になってしまうのではないかと危惧するわけです。

日本の個人投資家は、本書のような不確実性の高い部分なのに、商品やサービスといった想像しやすいがためにストーリーを描きやすい銘柄を探して投資をしているケースが少なくありません。

ですが、投資で成功するためには、『何を買うかではなく、どう買うか』の方がずっと大切だということを知らなければいけません。

どんなに優秀な企業でも、高値で買うことは避けるべきだし、逆にどうしようもない会社で、安値で放置されている会社が、突然息を吹き返すように急騰することだってあります。

良い会社だからいいのではなく、うまく買うことが出来れば、良い会社でなくたって、うまい投資ができることもあるのです。

そういった点で、本書の内容は方向性がいまいちなのかなと感じなくもありませんでした。

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