難しいけれど、重要なことが書いてある?
はっきり言って、「この本、難しいな」という印象が強かった。
だけど、難しくてよく理解できていない感覚なのに、「この話、無視できないな」と思う重要な視点だという感じも同時に受けました。
この本の内容は、今までの経済学の視点とは違うのかもしれないけれど、株式投資などをやっている現場目線で見れば、とても的を得ていると思いました。
現在の経済学の理論には、そもそも無理がある。
これは、最近しみじみと感じていることです。
経済学で示される話には、どこか腑に落ちないところがある。その原因が、経済学の考え方の根本に、「経済は”合理的”に動いている」ということがあるようです。
経済を合理的に、数式で示そうというアプローチが最近の主流なのだそうですが、現実の経済はそうではないらしい。
経済の動きは、人間と同じように非合理的で、非効率的で、予測不能なところが多々見受けられる。最近よく耳にするようになった行動経済学という分野で、経済のその非合理的な部分などが見えるようになってきた。
今までの経済学に当てはめて、「○○だから、こうなる」的な説明はほとんど無意味で、実際に世界中を震え上がらせたリーマンショックの経済危機の時、イギリスのエリザベス女王が、経済学の権威たちに対して、「どうして誰も危機が来るのをわからなかったの?」と聞いた、というエピソードもありました。
経済学を良く学んでいても、現実の経済の危機などを予測することは出来ない。ということがよくわかるエピソードの一つです。
はっきり言うならば、未来予測に経済学は役に立たないという事です。
それなのに、いまだに経済学の理論をどこからか持ち出してきて、「これから世界はこうなる」とか、「この政策によって、経済にこういう影響が出る」といった意見を目にしない日はありません。
しかし、そのような中でも、「本書の提言は的を得ている」と感じずにはいられませんでした。
現に本書が書かれた後に起こっている今の世界が、まさにその内容を具現化しているよに感じられなくもないからです。
金融緩和では、インフレにならない?
本書の見立てが正しいとしたら、今日本で行われている『金融緩和』は、まったくの無意味という事のようです。
従来の経済学の話では、金融緩和によってお金を大量に市中に流せば、お金の価値が下がり、物価が上昇し、インフレになって経済は活性化するという事になるはずなのですが。
実際には、長く金融緩和を続けても、日本では一向にインフレにならなかった。インフレはともかく経済が活性化する兆しも見えなかった。
最初、アベノミクスの指南役ともいえる、金融緩和推進派の浜田宏一さんの話を聞いたときには、「なるほどな」と思ったものですが、その後その通りに、当時の安倍首相と黒田日銀総裁によって行われた大規模な金融緩和は、結果的にそれほどの効果にはいたらなかった。(目標のインフレ率は達成できなかった。)
正直不思議に思いました。著名な経済学者が提言した内容を実際に行っているのに、なぜ理屈通りの結果にならないのだろうと。
でも、その疑問は本書を読んだことで、なんかすっきりとしました。
結局金融緩和で、中央銀行がお金を増発したとしても、インフレにはならない。むしろデフレに圧力がかかることになるというのが、本書の説明です。
今の世界のお金の流れは、キャリートレードの影響が大きくなっている。つまりは、資金調達コストの安い低金利のとこから、高い利回りを求めて、高金利のところへお金が流れるという世界になっているというのです。
そのキャリートレードの中心にいるのが、今のFRBや日銀などの中央銀行だと本書では提言しています。
日銀が金融緩和で金利を下げることで、低金利の円でお金を借りて、高利回りの米ドルや他国へ投資されるというのが今の世界のお金の流れだというのです。
思い当たる節は多々あります。ミセスワタナベと言われる膨大なFX取引。日本ではなく米国の株式市場に流れていくお金。どんなに金融緩和しても、結局そのお金は国内で投資されるのではなく、海外の投資で使われていることがあるというわけです。
つまりは、金融緩和で低金利になっても円というお金は資産価格の上昇に使われているものがほとんどなので、株価や不動産の価格は上がっても、収入が増えるなど景気が良くなったという実感のない経済回復になってしまうというのも、実際に感じている現場の感覚そのままです。
そして、そのキャリートレードで使われるお金というのは、出どころが借金でもある。そして、借金ということは、積極的にリスクを取って行動する足かせになることもある。
本の内容とは違うかもしれませんが、金融緩和を進めながら、どんどん膨らんでいく日本の借金。そして、その金額を聞いて、将来の年金、仕事、増税に不安を感じている国民。
不安を感じているから、積極的にはお金が使えない。つまりは、どんなに金融緩和を続けても、インフレにはならず、むしろ国民にとっては不安が増していくので、デフレへの圧力になる。
日本という国を使った、巨大な社会実験は、本書の内容を証明したに過ぎないのかもしれない。
そして、今後このキャリートレードの興隆によって、どんな危機が訪れるというのか?
気になる人はぜひ本書を読んでみると良いのかもしれません。
ただ、難しい本なので、最後まで読むのは結構キツイかもしれませんんが。
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