サミュエルソンは、なぜバークシャーに投資したのか?
インデックスファンドの信奉者である、ポール・サミュエルソン。効率的市場仮説を強く信じ、その考え方からノーベル経済学賞を受賞するまでに至った、経済学の重鎮。
効率的市場仮説といえば、株式市場の価格変動というのはランダムに動いてて、株価に影響するすべての情報は、情報が公開されるとともに瞬時に、株価に反映されることになっているという考え方です。
この考え方を代表する有名な本といえば、『ウォール街のランダムウォーカー(バートン・マルキール)』があります。この本は、投資の世界では名著として扱われ、多くの方が読んでいる本でもあります。
結局、市場が高度に効率的なのであれば、あれこれ考えて株式投資をすることの多くが、結果的には無駄になるということで、今はインデックスファンドが一番いいと言われてきているわけです。
しかし、経済学者の中では株式市場は効率的であるという効率的市場仮説が重きを置かれていますが、株式市場を数学的または統計的に考えた数学者や統計学者から見ると、市場には非効率的なところがあるという考え方が増えています。
つまり、数学者や統計学者から見れば、効率的市場仮説は正しくないということを考えているわけです。
そんな矛盾点を付き、効率的市場仮説を信奉する投資界の名著とも言われる『ウォール街のランダムウォーカー』をもじって、本書には『ウォール街のモメンタムウォーカー』というタイトルがついているわけです。
ところで、インデックスファンド信奉の巨匠サミュエルソンが実際に投資していたのは、著名投資家ウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイだったそうです。
そのウォーレン・バフェットの投資スタイルは、分散よりも集中、割安なもの買うバリュー投資、そして市場が弱気になっている時に大胆に買うというタイミング投資、インデックスファンドとは似ても似つかぬアクティブ投資のスタイルです。
インデックスファンドを世に広めるきっかけにもなったサミュエルソンが、実際にはインデックスファンドではなく、アクティブ投資のバークシャーで資産を築いていたというのは、なんとも皮肉なものです。
モメンタムに注目する。
モメンタムウオーカー、つまり本書にあるのは市場のモメンタムに注目する投資スタイル。
モメンタムとは、相場の勢い、つまりは価格が上昇しているものを買うというスタイルです。言ってみればトレンドフォローの考え方に近いです。
インデックスファンドを強く信奉している人からすれば、「市場はランダムに動いているのだから、上がっているもはその後も上がるなんていう、モメンタムの考え方はありえない。」ということになることでしょう。
しかし、実際そこにモメンタムはある。世界一のヘッジファンド、ジェームズ・シモンズのメダリオンもモメンタムに注目してトレードシステムを作っていた。
モメンタムというアノマリーがなぜ存在すると考えられるのか、その理由は本書を読んでみてほしいところですが、結論から言えば過去200年にさかのぼって相場のデータを分析すると、確かにモメンタムという効果が効いているようだということでした。
他にも、多くの本で市場にあるモメンタムのアノマリーについて解説されています。個人的にも、『市場は物理法則で動く』や『適応的市場仮説』などはおすすめです。
これらの本を絡めて読むと、よりモメンタムというアノマリーについて確信がもてる気がしています。
そして、いつまでも効率的市場仮説という仮説にしがみついていてはいけないという気持ちになってきます。
さらに本書の良いところとして、モメンタムを活用した投資手法を、とてもシンプルにまとめているところが挙げられます。『複雑にするよりもシンプルであること』というのは、相場に対峙する上でとても重要なことだと感じています。
相場というのは不確実性の世界ですから、先に何が起こるか誰にもわかりません。世界が不確実であるために、手法をあまり複雑してしまうとかえって応用がきかなくなります。その点シンプルにまとめて原理原則に重心をおけば、いろんな不測の事態に対応できるものになるものです。
その点、本書の投資戦略はとてもシンプルなので、非常に好感を持てました。
ただ、シンプルなものを使いこなすためには、周辺知識への理解が必要となることが多い。
そのため本書では、答えはシンプルでも、そのシンプルなものを理解するための解説に重きが置かれているせいか、なかなか難しい本のような印象になってしまっていると感じました。
それでも、きっと色んな意味で本書はとても参考になる良い本だと思います。
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